言葉の壁と言葉のチカラ!
小集団活動の取り組み
山形県から岡山県にあるヴィラ・プランタン せとうちにご入居された小橋遥さま(仮名)
ご入居当時は「帰りたい、帰りたい」と帰宅願望が強く、私たちの自慢の瀬戸内海の絶景を前にしても「そこの海に飛び込んで死にたい」と悲しいお言葉。中央ラウンジにお連れしても、すぐに居室に戻られてしまう。居室内にいる時は電気を消されカーテンを閉められる。居室のドアをタオルで縛ってスタッフが入れなくしてしまうことも。
「大切な家族を安心して託せる場所にしたい」
それが私たちヴィラ・プランタン せとうちの全スタッフの共通の願い。だから私たちは新しい取り組みを始めました。ヴィラ・プランタン せとうちでは親会社が製造業であることを生かし、介護の質の向上や課題解決に「小集団活動」という手法を取り入れています。小集団活動とは4名~5名のスタッフがチームを組んで自らテーマを決めて、そのテーマごとに課題解決手段を考え、それを実践する手法です。
ヴィラ・プランタン せとうちの4名のスタッフで小橋さまが「ヴィラ・プランタンせとうちに来てよかった」と思っていただけるように、を目的に小集団活動をスタートしました。
何が課題だったのか?
入居時から小橋さまはずっと表情が硬く、ヴィラ・プランタン せとうちに馴染まれていませんでした。原因は他のゲストさまと上手くコミュニケーションが取れていないこと、そしてスタッフにも意志・要望が伝えきれていないことでした。スタッフが小橋さまの山形弁をうまく理解できていないことが原因だ。私たちはそう考え挑戦が始まりました。山形弁を勉強して、それを実際に小橋さまとのコミュニケーションに使用しよう!
調べてみると山形弁というのは山形県で話される日本語の総称で、県内共通の山形弁というのは存在しないことが分かりました。小橋さまがお話になっているのは米沢弁なんだ!それが最初の発見でした。私たちは米沢弁を調べて一覧表を作成しました。方言と標準語を交互に表にした一覧表です。最初はまだ理解できる言葉が少なく、なんとなく、で対応することが多く、決まった時間など毎日声掛けし、方言でのコミュニケーションを取ることができませんでした。最初は米沢弁を全体で理解しようとしていましたが、意味が分かりませんでした。そこで反対にこちらでよく使う単語の方言をあえて会話の中に入れてコミュニケーションを取るように工夫をしてみました。
小橋さまが笑っていただいた!
みなさんは米沢弁で「ばっこ」って何のことだか分かりますか?答えは「大便」です。
取り組みを始めてから2か月ほどが経ったある日の就寝時にスタッフは小橋さまにこう声をお掛けしました。
「今日は、ばっこ出ましたか!?」
「あははは、ばっこ?ばっこ出とらんと!」
通じた!そして笑っていただいた!
私たちは他のスタッフに「ばっこ」を引き継ぎました。
米沢弁を教えてもらおう!
小橋さまとはだんだんとコミュニケーションが取れるようになってきました。小橋さまの表情にも少しずつ変化が表れてきました。小橋さまの意志や要望が少しずつですが理解できるようになってきました。そして私たちは単に勉強するだけでなく、小橋さまに積極的に教わるようになりました。
「さよなら」って米沢弁で「えまに」って言うんですか?とお伺いすると小橋さまは笑顔で「えまにー」かぁ?と仰っていただきました。もちろん私たちはすぐに「えまにー」と「に」を伸ばして発音してください!と他のスタッフに引き継ぎました。
私たちは小橋さまの要望が徐々に分かるようになりました。それと同時に小橋さまの笑顔をたくさん拝見できるようになりました。入居時の帰宅願望もなくなりました。
現在では行事への参加も積極的になってこられました。アロママッサージなどはお好きなようで、自ら行かれ笑顔で戻られる事、リハビリ体操もお声掛けすると、自分で車椅子を操作して行かれて参加されています。変化が見られたのは正月過ぎからでした。自らカウンターに来られ髪留めが必要だと訴えられたことでした。この日から小橋さんは少しずつ変わられたのだと思います。
小橋さまとのコミュニケーションを阻害していたのは言葉でした。でも小橋さまとのコミュニケーションを築けたのもまた言葉です。言葉のチカラを実体験した小集団活動でした。
これからも私たちはゲストさまの笑顔のために全力を尽くします。